ハイテクはどこで作られているか — 研究費・特許・輸出でたどる技術の重心

「ハイテク産業で日本は強い」という感覚と、統計上の順位は、いつからかずれ始めている。世界銀行のデータで見ると、日本のハイテク製品輸出額は2007年に世界4位(1,286億ドル)だったのが、2024年には11位(1,024億ドル)。金額そのものが17年間で2割減っている。一方で日本は研究開発費のGDP比で世界6位、特許出願件数で世界3位を保っている。投じる量は多いのに、売れる量の順位が下がる——このねじれはどこから来るのか。今回公開した国別ハイテク製品輸出額の推移(2007〜2024年)を軸に、研究・発明・貿易のランキングを重ねて読み解いていく。

世界地図の上を航空機・回路基板・薬のカプセル・精密機器のモチーフが交易路のように結ばれて流れる、水彩とインクのイラスト

「ハイテク製品」は誰がどう線引きしているのか

そもそも「ハイテク製品」は雰囲気で決まる言葉ではなく、統計上の定義がある。基準になっているのは OECD が1997年にまとめた技術集約度の分類だ。産業ごとに「売上高に対して研究開発費をどれだけ使っているか」を測り、その比率が高い品目を国連の標準国際貿易分類(SITC)の品目コードで名指しする。該当するのは航空宇宙、コンピュータ・事務機器、エレクトロニクス・通信機器、医薬品、科学機器、電気機械など。つまりこの指標は「先進的に見えるかどうか」ではなく「その品目を作る産業がどれだけ研究にお金を使っているか」で線を引いている。編集部が最初に意外に感じたのは、この定義では自動車がハイテクに入らないという点だった——技術の粋を集めた製品であっても、産業全体の研究費比率で判定されるため、自動車は一段下の「中高技術」に分類される。世界銀行はこの OECD の分類を国連の貿易統計 UN Comtrade に当てはめ、国ごとの輸出額として毎年集計している。

投じる、生む、売る — 三つのランキングを重ねる

技術は「研究費を投じる → 発明が生まれる → 製品として売れる」という順で数字に現れる。この経路を最も忠実になぞったのが韓国だ。研究開発費のGDP比は1996年の2.14%から2023年に4.94%へ上がり、イスラエルに次ぐ世界3位。特許出願件数(居住者)は1980年のわずか1,200件から2021年に18.6万件へ膨らんだ。そしてハイテク輸出額は2007年の1,072億ドルから2024年の2,162億ドルへ倍増している。中国はさらに極端で、研究開発費GDP比が0.56%(1996年)から2.58%(2023年)、特許出願が4,100件(1985年)から142.7万件(2021年)、ハイテク輸出が3,436億ドルから8,568億ドルと、三つとも桁が変わった。人材の供給側を映す高等教育就学率でも韓国は111.9%(2024年)で世界4位につけている。投資・発明・人材・輸出の四つが同じ方向を向いた国が、このレースの上位を占めている。

日本で切れているのは、この鎖の最後の一環だ。研究開発費GDP比3.44%は世界6位、特許出願22.3万件は世界3位——入口の数字は今も上位にある。それでも輸出額は2011年の1,334億ドルを最後に伸びが止まり、2015年に983億ドルまで沈んだあとは1,000億ドル前後の横ばいが10年続いている。減ってはいないが、増えてもいない。周りが増えた分だけ順位が下がる、という構図である。

防塵服を着た技術者が明るい工場のラインで小さな部品を検査し、その手元を同僚が見守る様子を描いた水彩とインクのイラスト

数字が語らないこと — 中継貿易、名目ドル、統計の空白

ただし、このランキングをそのまま「国の技術力の順位」と読むのは危うい。注意点が三つある。第一に中継貿易だ。2024年に2位につけた香港は、輸入した貨物をほとんど加工せずに第三国へ送り出す「再輸出」の拠点で、香港政府の統計では2024年の域内産品輸出578億香港ドルに対し、再輸出は4兆4,845億香港ドル——輸出全体の約99%が通過分である。実際このデータでも香港の値は2016年の4.7億ドルから2017年に2,936億ドルへ跳ねており、実体の急変ではなく集計対象の切り替えによる系列の断絶とみられる。シンガポールやオランダも程度の差はあれ同じ性格を持つ。第二に名目ドル建てであること。物価上昇と為替の影響がそのまま値に乗るため、円安が進んだ年の日本の数字はドル換算で目減りする。貿易額のGDP比名目GDPと並べ、比率でも確かめたい。第三に統計の空白。世界銀行のデータには台湾が含まれない。台湾は2024年に先端プロセス(16/14ナノメートル以下)の半導体生産能力の66%を握るとされ、その不在はこのランキング最大の欠落である。

重心はどこへ動いたか

それでも18年分を通して眺めると、流れははっきりしている。ハイテク製品の生産は、研究拠点のある国から、組み立てて出荷できる国へと広がった。ベトナムは2008年の30億ドルから2022年に1,359億ドルへ45倍、マレーシアは2009年の560億ドルから2024年に1,348億ドルへ2.4倍、インドは112億ドル(2009年)から541億ドル(2024年)へ。工場の移転はまず海外直接投資として現れ、数年遅れてコンテナ港湾取扱量と輸出額に届く——この時間差は、三つのチャートを並べて再生すると体感できる。ヨーロッパで異彩を放つのはアイルランドで、2021年まで500億ドルに届かなかった輸出額が2024年には1,176億ドルへ跳ね、8位に食い込んだ。多国籍製薬企業の欧州生産拠点が集まり、2024年の医薬品・医療関連品の輸出はモノの輸出全体の約45%を占めている。ハイテクの重心は一箇所にあるのではなく、研究する国、発明する国、組み立てる国、通す国に分かれて散らばっている。順位表の一行だけを見て国の強弱を語れないのは、そのためだ。

この記事で参照したランキング

出典: World Bank「High-technology exports (current US$)」(TX.VAL.TECH.CD、原典 UN Comtrade / OECD 技術集約度分類、CC BY 4.0)、同「R&D expenditure (% of GDP)」(GB.XPD.RSDV.GD.ZS、原典 UNESCO)、同「Patent applications, residents」(IP.PAT.RESD、原典 WIPO)、同「School enrollment, tertiary (% gross)」(SE.TER.ENRR、原典 UNESCO)。ハイテク製品の分類定義は OECD の技術集約度分類(Hatzichronoglou 1997)による。香港の域内産品輸出・再輸出の金額は香港特別行政区政府 工業貿易署の貿易統計(2024年)、アイルランドの医薬品輸出比率はアイルランド中央統計局 (CSO) の物品貿易統計(2024年)、台湾の先端プロセス半導体生産能力シェアは TrendForce の推計による。国別の金額・件数は当サイトのランキングデータ(2026年8月取得)から引用した。